http://el.jibun.atmarkit.co.jp/kaigaiengineer/2010/05/it-ef42.html どうも、鹿島和郎(かしまかずお)です。今回は海外ITエンジニアと日本のITエンジニアを待遇面から比較してみたいと思います。以前から書こう書こうと思っていたものの、延び延びになっていた話です。 ■ブラック業界で働いてるんだが、もう俺は限界かもしれない こないだショッキングな事実を発見してしまいました。Googleで「SE」と入力した後にスペースを入れてみてください。そうすると、第1候補として出てくるのは……「辞めたい」です(編注:5月24日現在。設定によっては表示されない場合があります)。SEを辞めたい人がけっこう多いということがよく分かります。 また、去年か一昨年くらいには、ついに「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」なんて映画(*)が出てしまい、IT業界=ブラックという認識が広まっているようです。 *駄作の香りがするので、わたしは見ていません。 ○海外では状況は違う 何回か前に少し触れましたが、海外でのITエンジニアは一般的には日本より好待遇です。数値を出しての詳細な比較はこの後で行いますが、ここでいくつかの例を出したいと思います。 まずは給与。プログラマの平均給与は日本に比べると高いです(もちろん為替レートにもよりますが)。 いろいろなところで言われていますが、日本ではプログラマが高い給料をもらうことはなかなか難しいと思います。自分の周りの狭い世界の話で申し訳 ないですが、プログラマで年収800万円以上の人を、わたしは見たことがありません。600万以上ですら、けっこう少ないです。 それに対して、海外ではシニアプログラマでしたら年収800万円は別に珍しくありませんし、600万程度なら掃いて捨てるほどいます。これは別にMicrosoftやGoogleのような大企業に限った話ではなく、中堅や小規模の企業でも当てはまります。 また、給与が同じだったとしても、休暇という面でかなりの差があります。日本のITエンジニアの場合、有休をなかなか取れないという人が多いので はないかと思います。海外の場合、(もちろん国にもよりますが)休暇は日本より長いですし、なにより「取るのが当り前」です。これは間違いなく海外の方が 日本よりいいところです。 ○個人レベルで出来る自衛は? さて、「IT業界=ブラック」は憂うべき事態であり、何らかの形で改善されるべきだとは思いますが、構造的な問題に起因している部分が多く、我々 ITエンジニアがどうにかできる部分は限られていると思います。従って、ここでは「何が問題なのか」、「どうすれば改善するのか」というマクロな話には触 れません。 かといって、劣悪な労働環境に手をこまねいて体を壊してしまうことも馬鹿らしいので、個人レベルでできる自衛手段を3つ挙げます。
1ですが、ITに思い入れがあまりなく、異業種に転職可能な若い人は真剣に検討すべきではないかと思います。ただし、これに関してはこのコラムで(というか@ITで?)扱う話でもないので触れません。 次に2ですが、スキルや経験を身につけていろいろな会社から引っ張りだこな技術者になれれば、転職してよい環境の会社で働けるかもしれません。これに関しては、@IT自分戦略研究所とか転職サイトなどを見ていろいろ研究してみてください。 そして3番が今回の話題です。海外のIT企業に転職すると待遇面でどんなメリットがあるのかについて、具体的に述べていきたいと思います。 ■数値などで実際に比較してみる ○前提知識 これ以降、いろいろなサイトから調べた数字を出していきますが、その前にちょっとだけ前提知識について説明します。 ・平均値と中央値 平均値の算出方法については小学校(中学校?)で習っているはずなので、知らない人はいないと思います。ご存じの通り、平均値は母集団の傾向を把握するのに便利ですが、万能ではありません。 例えば、A市の平均世帯年収が1000万円だったとします。その数値だけを見ると、「裕福な人が多く住む高級住宅地なのかな」と思ったりしますが、実際には低所得者が多く住む地区に、たまたまビル・ゲイツ級の金持ちが1人住んでいるだけかもしれません。 それに対し、中央値の場合はそういった問題は起きません。もし「中央値」をご存じない場合は、Wikipediaなどで調べてみてください(上のビルゲイツの例も載っていましたね)。 ・パーセンタイル あまり馴染みがない言葉かもしれませんが、中央値が分かっていればパーセンタイルに関してもすぐ理解できるかと思います。これもここでは説明しませんので、分からない方はググってください。 ○日本のITエンジニアの給与 さて本題です。まずは日本のITエンジニアのデータから見ていきたいと思います。 厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(全国)」で、少し古いですがH19年度のデータを見てみました。それによると、平均年収は以下の通りです。
別のデータも見てみましょう。ITmediaのこちらのページでは、「JOB@IT」の登録者の年収データを集計した結果が載っていました。2010年度の平均年収は以下の通りです。
また、転職サイトDODAのデータによると、2009-2010のSE・プログラマの平均年収は447万円だそうです。 別のデータですが、(若干古いデータで母数も少ないですが)「イーキャリアプラス」の調査結果は以下の通りでした。
調査によってSEの定義が若干違うとは思いますが、日本のITエンジニアの給与に関して、大体の傾向は掴めたのではないでしょうか。 ○海外のITエンジニアの給与 次に海外のデータを見てみます。 ・アメリカ まずはU.S. Bureau of Labor Statisticsの公式の統計情報を見てみます(詳細はbls.xlsを参照)。1ドル=90円とすると、主な職種の年間の平均年収は以下のとおりになります。
アメリカでの「プログラマ」というのが日本でのSE的な業務も含むとしても、日本のプログラマより、かなり好待遇なのが分かるかと思います。 興味があれば、salary.comなどで、もう少し細かいデータを見ても良いかと思います。 ・カナダ アメリカはITが強いのでITエンジニアの給料が高いのはある程度予想が付くかと思いますが、お隣のカナダではどうでしょうか。 Statistics Canadaより、2006年度の国勢調査のデータからsoftware engineersの年収を抜粋します(1カナダドル=85円で計算)。
こちらもやはり日本より高いことが分かるかと思います。 ちなみにカナダでは、就労ビザを取る際にITエンジニアは優遇されていて、以下の条件を満たす人であれば比較的簡単にビザが取れます(※)。
その際に雇用側が支払わなければいけない最低賃金ですが、例えばソフトウェアエンジニアだと4万ドル(≒340万円)です。 ※残念ながらその制度は今年の10月で終わるようですが。 ・イギリス ITJobsWatchというサイトによれば、平均年収は以下の通りでした。 Developer:4万ポンド(≒ 520万円) 現在の為替レートだと、日本とそれほど変わらないようです。 ・フランス いくつかのサイトを見て(1、2、 3)、以下のような数字が見付かりました(※)。1ユーロ=113円で計算しています。
最近のユーロ暴落により、円換算では日本より給料は少ないようです。ただし、物価の違いや、後述の休暇の多さなども考慮する必要があると思います。 ※フランス語に詳しくないため、間違っているかもしれませんが、参考程度に載せました。 ○休暇 給料は重要な要素ですが、休暇はどうでしょうか。 まずは個人的な経験ですが、わたしのいた会社の場合、年に3週間休みを取れたので、同僚は大体長期で旅行に行ったりしてました。また、仕事のスケジュールもみんなの休みに合わせて調整します。 北米の中小企業ですら3週間の休みが取れるのですが、ヨーロッパの場合は更に休暇は多いようです。わたし自身はヨーロッパで働いたことはないですが、年に5週間とかはそれ程珍しくないようです。 一方、日本はどうでしょうか。たった1日の有給を取るのですらけっこう面倒で、1週間連続で有休取得とかはほぼ不可能な会社がほとんどではないで しょうか。わたしの個人的な例ですと、お盆・年末年始・GWを除くと、日本の会社で長い休みを取れたのは、退職時の有給消化だけです。 海外のいいところは何でも柔軟に取り入れるのが日本人のいいところだと思うのですが、なんでこの部分は取り入れないんでしょうね。 ○労働時間 長くなってきたので日本の状況に関しては割愛しますが、海外の状況はどうでしょうか。 今回、各国の給与を調べていた時にこのページで面白い記述を見つけましたので引用します。
アメリカのプログラマに関する記述なのですが、内容は、「締め切り前とかを除けば、エアコンの効いたオフィスで週に40~50時間働くのが一般的で、自宅から働くことも可能」って感じで、日本の状況とのあまりの落差に思わず笑ってしまいました。 ちなみに個人的な経験はと言うと、9:30~18:30とかが普段の勤務時間でした。PL兼任になってからも8:00~18:30とかその程度でしたので、日本の一般的なIT企業よりは労働時間少なかったと思います。 ○中堅以上のエンジニアが一番恩恵を受ける 個人的には、(言語の壁さえなければ)海外に行って一番恩恵を受けるのは中堅クラス以上のPGではないかと思います。向こうではシニアPGとかそれに類する名前で呼ばれている人たちです。 日本ではPG→SE→PM or コンサルタントとならないと給料が上がらないことが多いですし、40を過ぎると技術者として転職するのが極端に難しくなります(※)。 それに対し、海外の場合には比較的年齢が高いITエンジニアというのも多いですし、技術者のままというキャリアパスも日本に比べると一般的だと思います。 よって、技術者志向が強い中堅以上のITエンジニアにとっては、海外への転職は選択肢にしてよいと思います。 逆に、新卒(あるいは経験が少ない人)だと海外ではポジションやそもそもビザを得るのが難しいので、そうした方々はまずは日本で職歴を積むほうが楽だとは思います。 ※キャリアパスに関しては、これまた別の機会に書こうとは思っています。 ○デメリットは? 待遇面では海外ITエンジニアの方が恵まれている点が多いのですが、1つデメリットをあげるとすると、「解雇されやすい」ではないでしょうか。日本では正社員だとあまり解雇されませんが、海外では割と簡単に解雇されます。 逆に言うと、(海外ITエンジニア固有の)デメリットはそれくらいしか思いつきません。 ■まとめ:海外への転職も選択肢に 日本のITエンジニアが全員ブラック企業に勤めているわけではありませんが、以下のような不測の事態もあり得ますので、現状に問題ない人でも海外転職という選択肢を持っておくだけは持っておいた方がよいのではないかと思います。
特に、技術者としてのキャリアを極めたいと考えている中堅以上のITエンジニアの方は、海外企業への転職は有力な選択肢となり得ると思います。また、その為に必要なスキルを身につけてみてはどうでしょうか。 少し長くなりましたが、今回はこの辺で。ではまた次回。 |
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