スマートフォン対応サイトの作り方、教えます

「WebサイトをiPhoneやAndroidで見やすく表示したい」「スマートフォンをターゲットにしたWebサイトをデザインしたい」――そんなWeb制作者のための新連載がスタートします。PCサイト制作のノウハウさえあれば、「モバイルサイトは未経験」でも大丈夫。スマートフォン(iPhone/Android)向けサイト制作の基礎知識から実践的なテクニックまで、H2O Space.のたにぐちまことさんが解説します。(編集部)


 iPhoneの快進撃とiPhone 4の登場、Android端末のXperiaとDesireのヒット、au初の国産Android端末「IS01」の発売――と、スマートフォンの勢いが止まりません。いまや一部マニアやビジネスマンにとどまらず、女性やお年寄りなどの幅広い層にまでスマートフォンの利用は広がり、「1台目の携帯電話」として購入する人も珍しくなくなりました。

 PCとの連携、PDA(Personal Digital Assistance)機能の充実、アプリによる機能拡張などのさまざまな特徴を持つスマートフォンですが、Web制作者として注目したいのはやはり「Web閲覧端末」としての存在です。従来の携帯ともPCとも違うスマートフォンの普及が進むにつれて、PC向けのWebサイトであってもスマートフォンからどう見えるか少なくとも意識する機会は増えるでしょうし、スマートフォンをターゲットにしたWebサイトを制作する機会は増えていくでしょう。

 この連載では、スマートフォンの中でも主流になりつつあるiPhoneとAndroidにフォーカスしたWebサイト制作の基礎知識とテクニックを紹介します。まずはスマートフォン対応サイトの制作にはどのようなアプローチがあるのか、どのような知識が必要なのか、ざっくり確認しましょう。


こんなにあるスマートフォン向けサイト

 スマートフォンのブラウザーはいわゆる「フルブラウザー」ですから、多くの場合、PC向けのWebサイトをほぼそのまま閲覧できます。しかし、画面解像度や通信回線の速度などの制限、タッチパネル操作などの特性から、PC向けのサイトが必ずしも快適に閲覧できるとは限りません。そこで、大手サイトを中心に、スマートフォン向けにレイアウトを工夫し、機能やコンテンツを絞り込んで提供する「スマートフォン対応」のサイトが増えています。

 いくつか代表的な例を紹介しますので、スマートフォンをお持ちの方はぜひ実際の端末で確認してみましょう。


■検索/ポータルサイト

Googleは、検索サービスはもちろん、GmailやGoogleカレンダーなど、ほぼすべてのサービスがスマートフォンに対応しています。iPhoneとAndroidでアクセスすると、スマートフォン向けに最適化されたページが表示されます。

グーグルのiPhoneサイト。トップページは検索窓だけのシンプルな画面

Yahoo! JAPANの場合は、トップページとオークションや地図などの一部のサービスのみスマートフォン向けページを提供しています(対応ページ以外はPC向けページが表示される)。「NAVER」も同様にiPhoneとAndroidで閲覧するとスマートフォン向けのページが表示されますが、Androidでは利用できない「+」ボタンが表示されることからiPhoneを前提にした作りのようです(+ボタンはiPhoneのホーム画面にアイコンを追加する機能)。

Yahoo! JAPANのトップページをiPhoneで表示したところ。各種サービスやニュースなどへのリンクが並んでいる

NAVERのスマートフォンサイト。Androidでアクセスした場合(右)も「+」ボタンが表示されるのでiPhoneが前提のようだ

■グルメサイト

「ぐるなび」は、iPhone用の専用サイトを用意しています。http://gnavi.co.jp/にアクセスするとPC用のサイトがそのまま表示されますが、画面の上部に表示されるバナー画像をクリックすることでiPhone専用のサイトに移動します。


iPhoneでぐるなびのトップページにアクセスするとPC用のサイトが表示されるが(左)、バナーをクリックするとiPhone用のサイトに切り替わる

 同じくグルメサイトの「食べログ」にはスマートフォン用のサイトはなく、PC用のサイトがそのまま表示されます。その代わり、iPhone向けには専用アプリを提供していて、アプリからサイトと同じ情報を利用できます。

食べログはスマートフォン用サイトを用意していないが、iPhone向けには専用アプリを提供している

■SNSサイト

mixiFacebookなどのSNS(Social Network Service)サイトもスマートフォン向けの専用サイトを用意しています。PCと同じID名、パスワードでログインすると、スマートフォン向けに見やすく最適化されたサイトが表示されます。


mixi(左)、Facebook(右)のような大手SNSサイトもスマートフォン用サイトを用意している。PC版と同じURLでアクセスすると、スマートフォン向けのページが表示される

■ショッピングサイト

Amazon楽天などのショッピングサイトもスマートフォンに対応しており、商品の検索から購入手続きまで、すべての操作を専用サイト上で完結できます。


Amazon.co.jp(左)や楽天(右)といった大手ショッピングサイトもスマートフォン用サイトを用意。PC向けに比べるとシンプルなトップページになっている

 いずれのサイトも、PC向けではトップページにおすすめ商品などを賑やかに並べているのに対して、スマートフォン向けでは検索窓を大きく設置して、かなりシンプルなデザインにまとめています。

スマートフォンへの対応方法あれこれ

 前に紹介したサイトへアクセスしてみると、ひとくちに「スマートフォン対応」といってもさまざまな方法があることが分かります。たとえば、Googleはほぼすべてのコンテンツやサービスをスマートフォン向けに最適化して表示していますが、食べログのようにサイトとは別に専用アプリを提供する方法や、ぐるなびのように一部のページだけ対応する方法もあります。


■スマートフォンへの完全対応

 Googleやmixi、Facebookのように、スマートフォンでもPCとほぼ同様のコンテンツ、サービスを提供する方法です。PCサイトと同一のURLにアクセスすると、スマートフォンの場合だけ最適化された専用サイトへ移動します。

 専用のURLの入力や特別な操作が必要ないので、Twitterやメールなどのリンクからもそのままアクセスできますし、スマートフォンとPCのブラウザーのブックマークを同期しているユーザーにも便利な対応方法です。


■専用アプリを提供

 Webサイトとは別に、iPhoneのApp StoreやAndroid Marketから専用アプリを提供する方法です。専用アプリは、Webサイトだけでは実現しにくい機能をユーザーに提供できるのが強みです。たとえば食べログのアプリでは、外出先で利用することが多いスマートフォンの特性を生かして、付近の飲食店を検索する「現在地から検索」という機能が付いています。

 Facebookのように、スマートフォン向けサイトを用意しつつ、メッセージの着信通知などの独自機能を持つ専用アプリを提供しているサイトもあります。必要十分な機能を提供するサイトと、付加機能を提供するアプリの両方を用意する方法です。Amazonはバーコードをスキャンして商品を検索できるアプリを、Yahoo!はオークション管理に特化したアプリを提供しています。


■一部のページだけを対応

 「ぐるなび」やYahoo!のように、スマートフォンユーザーのニーズが高い一部のページだけを最適化する方法です。この場合、トップページにアクセスした時点ではいったんPCサイトを表示してバナーなどでスマートフォン向けページへ誘導したり、フッターにPCサイトへ切り替えるリンクを設置したりして、スマートフォン向けには提供されていないコンテンツや機能へもアクセスできるようにしています。

Yahoo!はスマートフォン向けとPC向けを切り替えるリンクを設置している

 実際にWebサイトを「スマートフォン対応」する場合にどの方法がよいかは、サイトの規模や構造、スマートフォンユーザーをどのよう程度取り込みたいかといった、サイトの戦略や方向性によります。「完全対応」や「専用アプリ」を用意する方法はユーザーにとってはメリットが大きい半面、クライアント(発注者)側にはそれなりのコストがかかります。一部のページから少しずつスマートフォン対応を始めて、ユーザーの動向を見ながら徐々に完全対応や専用アプリを検討するアプローチもあります。


いまスマートフォン対応が必要な3つの理由

 いくら勢いがあるとは言っても、携帯電話全体に占めるスマートフォンのシェアはまだ10%未満(インプレス調べ)ですから、まだ対応を急ぐ必要はないと思う方もいるかもしれません。しかし、純粋に現時点でのシェアだけでは測れないスマートフォンならではの事情もあります。スマートフォン対応が必要な理由を3つ紹介しましょう。


■携帯電話というよりもPC

 電子マネーが利用できず、iモードなどの携帯コンテンツを楽しめないスマートフォンは、携帯電話をアクティブに利用しているユーザーからするとむしろ不便な端末といえます。そのようなユーザーは、スマートフォンには乗り換えません。

 むしろスマートフォンユーザーの中心は、携帯電話よりもPCをアクティブに利用している人たち。PCがないリビングやベッドルーム、外出先などでちょっとWebを見るのに使ったり、手軽にWebへアクセスできる「簡易パソコン」として使ったりしています。スマートフォン対応サイトは携帯ユーザーよりも、こうしたPCユーザーに対する情報提供の手段になります。


■Twitterからの流入

 スマートフォンにはネットを使いなしているユーザーが多く、TwitterやRSSリーダー、USTREAMなどの新しいサービスを積極的に活用する層とも重なります。特に、Twitterとスマートフォンの相性はよく、スマートフォンでネットを利用するユーザーの42.5%がTwitterを使っているとの調査結果もあります(インプレス調べ)。

 スマートフォンでTwitterを利用するユーザーは、タイムライン上で共有したURLにそのままスマートフォンからアクセスしますから、Twitterからの流入を重視したい場合は着地ページのスマートフォン対応が重要になります。


■大手メディアサイトの対応

 すでにスマートフォンへ対応している大手メディアサイトを経由して訪れるユーザーのためにも、スマートフォン対応は大切です。たとえば飲食店のサイトなら、「ぐるなび」や「食べログ」からの流入は少なくありません。せっかく詳細な情報を求めてサイトを開いたのに、スマートフォンで見られなかったり、見づらかったりするとそれだけで機会損失につながるかもしれません。


 スマートフォンの今後のシェア拡大を見越して対応サイトを用意する、という考え方ももちろんありますが、特にPCやネットをアクティブに利用しているユーザー層を取り込みたい場合には率先してスマートフォン対応を進めるとよいでしょう。

iPhone、Androidサイト制作に必要な知識

 実際にiPhone/Android向けのサイトを制作するとなったら、Web制作者はどんな知識を身につけたらよいのでしょうか。詳細については今後の連載の中で解説しますが、大きく分けると3つあります。


■HTML+CSS(HTML5/CSS3を含む)

 スマートフォンのWebブラウザーはフルブラウザーですから、PC向けのサイト制作とは共通点が多く、実際の作業もかなり似通っています。このため、スマートフォンサイトの制作では携帯サイトよりもPCサイト制作のノウハウが活きてきます。

 特にiPhone/Androidに搭載されているWebブラウザーは、PCに比べてHTML5やCSS3への対応が進んでいます。PCサイトのように古いWebブラウザーへの対応を考える必要がないスマートフォンの世界では、むしろ新しい技術を積極的に活用したサイト制作がポイントになります。


■JavaScript

 PCサイトとの共通点が多い半面、タッチ操作が基本となるiPhone/Androidでは、マウス操作が前提のPCとの違いもあります。2本指を使ったジェスチャーや画面の拡大/縮小など、スマートフォンならではの操作性を実現するのに活躍するのが、JavaScriptです。

 最近ではPCサイトでもJavaScriptを使う機会は増えていますが、iPhone/AndroidのブラウザーもJavaScriptをサポートしています。PCサイト以上にJavaScriptを積極的に活用することで、操作性のよいWebサイトを制作できます。


■各スマートフォンの特徴・仕様

 iPhoneには、iPhone 3G/3GS、4という世代の変化のほか、iPod touchという兄弟端末もあります。

 一方のAndroidは各ハードメーカーからさまざまな端末が発売されており、日本で販売されている機種だけでも数種類あります。端末によってハードウェアのスペックや搭載されているOS/ブラウザーの仕様に違いがあるため、端末ごとの特徴をしっかり理解したうえでの制作、表示・動作確認が必要になります。


iPhone、Android向けサイト制作のアプローチ

 実際のスマートフォンサイト制作のアプローチにもいくつかの方法があります。この連載では以下の3つの制作方法を紹介する予定です。


■専用サイトをスクラッチで構築する

 もっとも素直なのが、専用サイトをスクラッチ(1から)構築する方法です。すでにあるPCサイトのコンテンツを流用する場合と、コンテンツも1から用意する場合があります。これまでのしがらみを一切気にすることなく、スマートフォンの魅力を存分に引き出したサイトを制作できるのがメリットです。


■PCサイトをiPhone、Androidで見やすくする

 すでにPCサイトがあり、かつ専用サイトを作るほどではない場合には、PCサイトのままスマートフォンでも見やすくする方法があります。CSSやHTMLの書き方を工夫することで実現できます。

 また、Movable Typeや WordPressなどの、CMS(Content Management System)を利用しているサイトの場合は、プラグインやテーマなどを導入することで、スマートフォンに対応することもできます。このあたりも紹介していきましょう。


■携帯サイトを最適化する

 すでに携帯サイトを持っていて、スマートフォンに対応させたいというケースもあるでしょう。やや特殊ではありますが、携帯サイトを最適化する方法も紹介したいと思います。

 次回以降、iPhone/Androidサイト制作の具体的な方法を解説します。次回はサイト制作に必要な環境準備について説明する予定です。


Comments