第4回 対応すべき案件を選ぶ:費用対効果で優先順位を判断する

 工数を概算したら,その結果から,実施するかどうかを判断する。利用部門が判断するか,関係者を集めて会議で判断するか,のどちらかだろう。前者では,案件は1件ずつ判断される。後者の場合は,ある程度,案件をまとめて判断することが多い。

 ヤナセでは,緊急対応が不要な案件は,できるだけ蓄積した上で,まとめて優先順位を判断している(図1)。中古車管理システム「BS-n@vi」の構築プロジェクトなどを率いてきた柴田直樹氏(情報システム部 システム3課 課長)は,「1件ごとでは優先順位が付けられない。横に並べることで根本的な問題が見えてくる」と,蓄積を勧める理由を説明する。


図1●案件をまとめて優先度を測るヤナセ
緊急性が無い案件は,可能な限り蓄積しておき,他の案件と横並びで優先度を判断する。案件対応は個別に行うほかに,まとめてフェーズの中で対応することもある
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 同社では,利用部門,情報システム部門,開発・保守委託先の担当者が,優先度判定会議で案件を選ぶ。2~3カ月単位でまとめた案件に優先度を付け,個別に対応するのか,次期フェーズにまとめて対応するのかも決める。

 案件をまとめて対応することは,改造のリスクを減らすことにつながる。「小さな変更を,何回も行う」よりも,「変更を集めて,1回で行う」ほうが,影響調査と確認テストは容易だ。

 ただし,案件の数がまとまるのを待つことで,対応のスピードが落ちることは考慮したい。ミサワホームでは以前,案件対応を1カ月単位にまとめることを検討したが,結局は個別対応を続けている。「まとめるシミュレーションを行ったところ,案件のキャッチアップがかなり遅くなると分かった。プログラムの品質や生産性の面で,個別対応するデメリットも感じなかった」(松尾氏)ことが理由だ。案件が上がってくる頻度,改造作業のリスクなどから自社に合った対応スタイルを確立すべきだろう。

新規開発は第0次の保守開発

増井 和也(ますい かずや)
ソフトウェア・メインテナンス研究会 幹事
(東芝ソリューション ソリューション第三事業部 参事)

 ソフトウェア・メインテナンス研究会(SMSG)では,既存ソフトウエアに変更を加える開発を「保守開発」と呼んでおり,大きく「訂正」と「改良」の二つに分類している。SMSGは,ソフトウエア保守と新規開発の関係について,以下のような見解を持っている。

 ソフトウエア保守を行うためのプロセスは,開発プロセスを実行する上位にあり,その関係は図Aのようになる。両者のプロセスの関係から,保守開発(開発プロセスを含む)に必要とされる技術は,新規開発で必要とされるすべてを包含しているといえる。

図A●ソフトウエア保守のプロセス

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 ここで,開発が完了してリリースされたソフトウエアが初めて業務に役立ち,様々な保守開発が開始されることを考えると,新規開発は保守プロセスを省略した第0次の保守開発と位置づけることができる。 

 両者の関係をもう少し詳しく見ると,新規開発では,図Aの(2)が要件定義や設計に対応し,(4)が本番システムに投入する前のテストに対応する。また最近では,新規開発といっても関連する既存ソフトウエアが存在する場合がほとんどだ。ここで示したプロセス・モデルは新規開発と保守開発の実態を両方ともカバーしている。

ソフトウエアの一生から目が離せない

 保守開発と新規開発の関係に踏み込むために,ソフトウエアのライフサイクル(初期開発~廃棄)とヒトの一生を比べてみよう。新規開発の期間は「ヒトの出産まで」,稼働後から廃棄まで保守開発の期間は「ヒトが生誕してから寿命がまっとうされるまで」,また保守開発自体は「ヒトが生存期間に受ける様々なケア」に見立てられる。

 ソフトウエアの稼働期間は,新規開発期間に比べ通常はるかに長い。品質に何ら問題のないソフトウエアであっても,OSやミドルウエアのバージョンアップ,法律や制度の改定など,環境変化により,傷病(対応障害)や体質変化(相対的価値低下)が起こり,ケア(保守開発)が繰り返し必要になる。

 保守開発は既存ソフトウエアの悪い部分や弱い部分を直したり良くしたりする行為であり,担当者は対象の品質を正確に把握し,品質状態に応じた様々な対応ができるような技術を持っていなければならない。

 現在のソフトウエア工学に関する文献は,もっぱら新規開発に関する技術を取り扱っており,何らかのトラブル因子を抱えながらも,運用し続けなければならない既存ソフトウエアの治療,成長,体質強化,延命などについての技術を論じたものは少ない。

 SMSGでは,今後はソフトウエア・ライフサイクルの保守プロセスに力点をおいた保守開発技術の整備が必要だと考えており,産官学一体となった研究が進むことを期待している。こうした研究の進展に,SMSGはより主導的にかかわっていきたいと考えている。

ソフトウェア・メインテナンス研究会
1990年に設立したSMSG(http://www.smsg.or.jp)は,ソフトウエア保守の実務者による地道な研究活動を続けてきた。その成果として,プロセス改善,QCD管理指標,担当者の教育・育成,作業見積もりモデル,作業効率化など――ソフトウエア保守の技術を整理した。この経験を基に「ソフトウェア保守に関する国際規格 ISO/IEC 14764-1999(JIS X0161-2002)版」のJIS化委員会に参画。2006年版のJIS化においてもSMSGが幹事を担当し,現在編纂中である。
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