鈴木 昌人(すずき まさと) 野村総合研究所 エンハンス業務革新推進室 上級専門スタッフ 野村総合研究所(NRI)では,システムの保守業務を,「エンハンスメント」(以下,エンハンス)と呼んでいる。NRIにおけるエンハンスとは,単なるシステムの維持管理ではなく,「顧客のビジネス要件の変化や新たな技術の進化に合わせて,システムの価値を高める」「様々な要求に対する最適な提案を行う」ことを指す。 システムのエンハンスは,新たな機能と既存機能の両方を保証しなければならず,対象システムの綿密な調査が必要である。エンハンスに携わってきて感じるのは,高度な専門知識を伴う難易度の高い業務であるということだ。これは,度重なる変更により複雑化したシステムでは,なおさらである。 また,顧客のビジネスの中核として日々動いているシステムを相手にするため,顧客の要件にタイムリーに対応しなければならない。さらに,予期せぬ障害の対応を迫られる場面もある。エンハンスの担当者は,日々の業務に追われ,ゴールが見えなくなるといった状況に陥ってしまうことがある。 「やらされ感」から抜け出す エンハンスの重要性と課題を再認識し,全社横断の「エンハンス業務革新」活動に着手している。この4月には推進母体として「エンハンス業務革新推進室」を新たに設けた。 こうした活動の中では,CS(顧客満足度)とES(従業員満足度)の向上,およびエンハンス業務の品質・生産性の向上を目指して,以下の三つの活性化策を推進している。
(1) エンハンス担当者の主体的な活 動計画と成果確認による活性化 (2) 組織の流動性向上による活性化 (3) エンハンス業務革新活動の発表 と共有による活性化 (1)主体的な活動による活性化 エンハンスのような継続的な業務において「やらされ感」や「ゴールが見えない」といった状況を抜け出すためには,現場の担当者がエンハンスを事業ととらえ,自分たちが何を求め何を行うべきかを主体的に考える必要がある。そのために,自分たちで決めた目標と達成時期をコミットして実行していくことが重要であると思う。また,目標の達成状況を定期的に全員で確認し,分析することも大切である。上司もこれをきちんと評価し,次なる活動へのモチベーションにつなげなければならない。 (2)組織の流動性向上による活性化 非常にポテンシャルの高い人であっても,同じ環境で,同じ業務を長く続けると,モチベーションや緊張感は低下するのではないだろうか。エンハンスの現場では,膨大なノウハウが蓄積されている。その一方で,そのノウハウが特定の担当者に集中して業務量にばらつきが出たり,メンバーのローテーションができずチームが硬直したりといった状態に陥りやすい。 そこで,ノウハウを体系化して誰もが共有できる形にすることで,ローテーションを行いやすくすることが重要である。また,エンハンス業務は,システム変更に必要な設計開発のスキルだけでなく,顧客との折衝や,テーマの調整など,一人ひとりに求められる範囲が広い。新規構築プロジェクトとエンハンスを交互に担当させるなど,計画的な人材育成・要員計画も大切なポイントである。 (3) 業務革新活動の発表の場と共 有による活性化 業務革新活動の発表の場として「エンハンスメントソリューションを楽しむ会」を毎月開催している(写真A)。エンハンス業務の一部を委託しているパートナーも参加し,各現場の改善活動の成果やノウハウを共有する。発表者は自分の成果を自信をもって発表し,参加者は自分たちの活動に取り入れようと耳を傾ける。参加者からは,「自分たちの行っていることが間違っていないことを実感できた」という声も聞かれる。 写真●「エンハンスメントソリューションを楽しむ会」の様子 |
モチベーションを向上させるための一つひとつの取り組みは地道である。NRIでは,「エンハンス業務革新」に会社を挙げて取り組んでいるが,現場の担当者やリーダー,さらには部長,経営層といった各階層の人たちがそれぞれの立場で「何ができるか」を考えることが重要である。各現場,各層がベクトルを合わせることでより大きな活動となり,より大きなモチベーションへとつながるだろう。
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